幸せにしたいのは君だけ
長いまつ毛を瞬かせながら、思案顔で後輩が口にする。

そのセリフに心臓を鷲掴みにされた気がした。

口の中が一気に乾いていく。


「そんなに……似てる、の?」

「なんとなくですけど。それに、最近佳奈さん、雰囲気変わりましたよね?」

「え?」

「特に服装が。以前はもっと可愛らしい感じの装いをされていたのに、今はすごくカッコいい、シンプルな感じですよね」

「……よく見てるね」

「私、ファッション関係にすごく興味があるので。大学は被服学科でしたし」

「似合ってない?」

「いいえ、とてもお似合いです。佳奈さんのイメージが変わりました。すごく素敵な服を選ばれてるなあって、密かに思っていたんですよ」


後輩は手放しに褒めてくれる。


「そういえば岩瀬さんもシンプルな服装をされていますよね。先ほど岩瀬さんのスーツ姿をお見かけして思ったんです。佳奈さんみたいって」

「え……?」


それは副社長付きの秘書だからじゃないの、とは言えなかった。

華美な服装はできないからよ、と受け流してもよかったはずなのに。


だって私は知っているから。

仕事帰りに一緒に食事に行く機会は、これまで何度もあった。

だから澪さんの私服の好みはよく知っていた。

華美な装いや可愛らしい服装をあまり好まないと。


「確かに……似てるわね」


かすれた声で返事をするだけで、精一杯だった。
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