幸せにしたいのは君だけ
――圭太さんも、もしかして、そう思ってる?


馬鹿げた妄想だとわかっている。

それでもそう感じずにはいられない。


もしかしたら私に澪さんの面影を見つけたから、好きになってくれたのだろうか、と。

ううん、『好きだ』と思っているのだろうか、と。


……いつになったらこの不安から離れられるのだろう。


「岩瀬さんがいらっしゃったから、佐久間さんもお見えになるかと思って期待していたんですけどね」


今、まさに考えていた人物の名前を挙げられて、肩がビクリと跳ねた。


「……なんで、そう思うの?」


自分でも思った以上に乾いた声が出た。


「だって、岩瀬さんと佐久間さんってすごく仲がいいんですよね? 幼馴染みでしたっけ?」

「そうだけど、業務が違うんだから一緒に行動はしないでしょ。特に佐久間さんは今、海外でしょ。ふたりともいい大人だし、そもそも今はプライベートな時間じゃないわよ」

「でも、佐久間さんはよく秘書室に出入りされているって、友人が話してたんですよ」

「それは関わっている仕事の関係で役員の方々に報告があったり、スケジュール確認だったり色々業務上の理由があるからじゃないの?」


特に副社長と圭太さんはプライベートでも親しい。

業務だけではなくそういった気安さもあるのではないか。


「そうなんですか? あ、まさか……九重をとうとう退職されるんでしょうか? 自身の会社を継ぐとか……だから、クリスマス前にも慌ただしく帰国されていたとか?」


まるで自分に言い聞かせるかのように話し出す後輩。


――退職? 

クリスマス前?
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