幸せにしたいのは君だけ
「俺、言ったよな? どんな些細な不安でも不満でもなんでもいいから自分で抱えずに話してほしいって。なんで、佳奈はそうやってひとりで抱えて、判断するんだ?」

「だって……」

「俺はそんなに信用がない? 俺は佳奈の恋人だろ?」


ほんの少しイラ立ちの混じった声に、反発心がうまれる。


それをあなたが言うの?

自分の気持ちを隠しているのはあなたでしょう?

肝心な想いを教えてくれないのは圭太さんじゃないの?


その時、スマートフォンの着信音が鳴り響いた。

彼がスーツの内側のポケットからスマートフォンを取り出す。

軽く眉間に皺を寄せる圭太さん。


「……こんな場所でする話じゃないし、約束があるから行く。仕事が終わったら、夜にもう一度話そう。迎えに来るから」


淡々と言われる。

彼の言い分は正しい。


会社から少し離れた場所とはいえ、白昼の往来で、私はなにをしているんだろう。

いい大人が情けない。

こんなのただの言い争いだ。


「もう話なんて、ない」

「俺にはある」


私の返事をぴしゃりと跳ねのけて、彼がより低い声で告げる。


「迎えにくるから。逃げるなよ」

「……わかった」


いつもとは違うきつい言い方に、溜め息をつきながら返事する。

気は進まないけれど、いつまでも避けては通れない。

いずれは話し合いたいと思っていたのだから。

意地を張るべきではないのだろう。


「……連絡するから」
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