幸せにしたいのは君だけ
7.「私を好きですか?」
連絡、したほうがいいのかな。


さっきから何度も自問自答している。


でも約束を忘れていた、とあっさり言われたら? 

今日はやっぱり無理、と言われたら?


嫌なケースばかりを想定してしまう。

いつから私はこんなに意気地なしになったんだろう。

だからといって用もないのに、いつまでも会社に残っているわけにはいかない。


……とりあえず帰ろう。

会社の近くのカフェで連絡を少し待ってみよう。


勇気をもらうように、バッグの中に入れた彼のマフラーを見つめる。

本当は巻きたいと思ったけれど、彼のものなのに勝手な真似をしているようで気が引けた。

社員通用口に向かう足取りは重く、いつもの何倍もノロノロ歩いてしまう。


「佳奈」


外に出た途端、呼ばれた名前。

低い、最近では聞きなれてしまった声。


「え……?」

「お疲れ様」

「どうして……」


ここにいるの?


「俺、迎えに行くって言ったよな?」

「でも、なんの連絡も……」

「事前に何時に迎えに行くとか言ったら、逃げられるかと思ったから」


しれっと言う恋人に目を見開く。

この人は本当にとんでもない策士だ。


「そんなつもりは……!」

「ないって言い切れる? そもそも佳奈だって、一切連絡してきてないよな? 俺がここにいなかったら、どうするつもりだった?」


自身のスマートフォンをスーツのポケットから取り出して言う圭太さん。

その声は淡々としていた。


「待つ、つもりだった」

「そう」


自分で尋ねたくせに、興味のなさそうな反応を返される。
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