幸せにしたいのは君だけ
水を給仕してくれたウエイターに圭太さんがなにかを注文すると、優雅に一礼をして出ていった。


「……教えてくれないか。佳奈は今、なにを考えてる? なにが気に入らない?」


はあ、と息を吐きながら彼が言う。

その口調は少しイラ立っているようにも聞こえた。


「気に入らないなんて……そんな」


――ただ不安なだけなのに。


「出会った頃の佳奈は、俺に物おじせずに突っかかってきただろ? なんで今はそうやって自分の中にため込むんだ?」

「だってあの時は、付き合っていなかったじゃない」

「だから? 付き合ったら話せなくなるなんて、おかしいだろ?」

「どうして?」

「お互いの距離が近づいているんだから、なんでも話せるはずだろ」

「好きだからこそ、話せない場合もあるでしょう?」

「……佳奈、落ち着けよ。仮定の話ばかりしてもどうにもならない。本心を隠したままじゃ、なにも解決しないだろ」


呆れたような口調が胸に痛い。


なぜ、そんなに冷静なの?


「好きな人が言われたくないとわかっている出来事や触れられたくない話題を避けるのがおかしいの? 大事な人を傷つけたくないと考えるのは、間違いなの?」


必死で絞り出した声が震えていた。


ねえ、私の考え方は間違っている? 

好きだから傷つけたくないの。

好きだから笑っていてほしいの。

――好きだから、言えないの。
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