幸せにしたいのは君だけ
ポーンと軽快な音をたてて、エレベーターの扉が開く。
グイッと乱暴に涙を拭う。
急ぎ足で、うつむきながらロビーを通り過ぎる。
滲んだ視界に映る、華やかで豪華なロビーが胸に痛い。
こんな状況でなければ評判のホテルの利用にきっと心が躍っていただろう。
本当は全力疾走をしたいくらいだけど、さすがにそんな真似はできない。
そのほうが逆に目立ってしまうだろう。
それだけは避けたい。
やっとの思いでホテルの外に出た。
タクシーに乗ろうと笑顔のベルボーイの元へ一歩を踏み出そうとした時、背後から声をかけられた。
「――三浦さん?」
低く落ち着いているのに、なぜか威圧感を感じる男性の声。
聞き覚えのある声に思わず振り返る。
「……九重副社長」
――澪さんの旦那様。
「偶然ですね。失礼ですが、おひとりですか?」
「……はい」
躊躇いがちに返答する。
圭太さんとはまた少し雰囲気の違う、彫刻のように整った面立ちが少し歪む。
本来ならグループ会社の一社員が、九重グループの御曹司に名前を覚えてもらったり、話しかけられるわけはない。
けれど、彼の最愛の妻の後輩である私は、自宅にも何度か遊びに行かせてもらっているため、多少なりの面識がある。
グイッと乱暴に涙を拭う。
急ぎ足で、うつむきながらロビーを通り過ぎる。
滲んだ視界に映る、華やかで豪華なロビーが胸に痛い。
こんな状況でなければ評判のホテルの利用にきっと心が躍っていただろう。
本当は全力疾走をしたいくらいだけど、さすがにそんな真似はできない。
そのほうが逆に目立ってしまうだろう。
それだけは避けたい。
やっとの思いでホテルの外に出た。
タクシーに乗ろうと笑顔のベルボーイの元へ一歩を踏み出そうとした時、背後から声をかけられた。
「――三浦さん?」
低く落ち着いているのに、なぜか威圧感を感じる男性の声。
聞き覚えのある声に思わず振り返る。
「……九重副社長」
――澪さんの旦那様。
「偶然ですね。失礼ですが、おひとりですか?」
「……はい」
躊躇いがちに返答する。
圭太さんとはまた少し雰囲気の違う、彫刻のように整った面立ちが少し歪む。
本来ならグループ会社の一社員が、九重グループの御曹司に名前を覚えてもらったり、話しかけられるわけはない。
けれど、彼の最愛の妻の後輩である私は、自宅にも何度か遊びに行かせてもらっているため、多少なりの面識がある。