幸せにしたいのは君だけ
苦手な遠距離恋愛を、文句のひとつも言わずに受け入れてくれた恋人。

寂しい思いや不安にさせているとわかっていた。

それでも佳奈は一切泣き言を言わなかった。


元々彼女は俺に弱音を吐いたりしない。

甘え方を知らないのかと思うくらいに、いつも凛と前を向いている。

自分の都合より、俺の仕事や体調を優先して、気遣ってくれていたくらいだ。


誰よりも心優しく、心配性な恋人に無理をさせたくなくて強引に約束させた。


『佳奈の考えや想い、不安はどんな些細なものでも構わないから俺に伝えて。きちんと言葉にしてほしい。そうじゃなきゃきっと俺は気づかないから。俺の知らない場所で佳奈がひとりで泣いていたり、つらい想いを抱えるのは嫌なんだ』


心からそう願った。

暮らす国が違い、すぐに駆けつけれない俺の精一杯の宣誓だった。

これから先、彼女がつらい思いをしなくてすむように。

彼女を悲しませるすべてから守れるようにと誓ったつもりだった。


――だけど、俺はそれに油断して甘えていたのかもしれない。

なにかあれば佳奈が自分から言ってくれる、そう思い込んでいた。

裏を返せば、なにも言わないのであれば大丈夫なんだと過信していた。


陰で恋人がどれだけ心を痛めていたのかなんて、思いもせずに。

ただ楽観的に過ごしていた。
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