幸せにしたいのは君だけ
『今も、好きなんでしょう?』


放たれた言葉が矢のように俺の胸を射った。

なにを言ってるんだ?


『大事なんでしょう?』


誰を? 

佳奈以上に大事な人はいない。


『……諦めたいから、代わりに好きになれそうな人を探していただけなんでしょう?』


身代わりで誰かを好きになるほど、俺は器用じゃない。

心の中で嵐のように感情が暴れている。

佳奈の言っている意味がわからなかった。


なんで、澪の話が出てくる?


澪はただの幼馴染みで、確かに大事な存在だが、恋愛感情なんかこれっぽちもない。

ましてや、佳奈に対する気持ちと澪に対する気持ちは種類がまったく違う。


それなのに、なぜ。


ああ、でも。

とりあえず今は彼女を捕まえなくては。

きちんと話をしなくては。


冷静に、気持ちを聞くために迎えに行ったはずだった。

それなのに、恋人のどこか強張って怯えたような姿が胸を苛んだ。


なにを考えてる?

どうしてそんなに緊張しているんだ?

……まさか別れ話をするつもりか?


その考えに思い至った時、血の気がひいた。


だから、俺のマフラーも使わないのか? 

そんなによそよそしいのか?

――別れるなんて、認めない。

こんなに愛しく想う存在を手放すなんてできない。
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