幸せにしたいのは君だけ
「安心しろ。三浦さんは今、澪の実家にいる」


豪華な革張りのソファに腰をおろした副社長が簡潔に告げた。

佳奈の居場所がわかり、ホッとすると同時に迎えに行きたくてたまらなくなった。

すかさず玄関に向かおうとする俺の背中を、先輩の声が追ってきた。


「――どこへ行くつもりだ?」

「決まっているでしょう。佳奈を迎えに行きます」


振り返って返答する。

こんな風に副社長と会話している暇はない。

俺は今すぐ恋人に会いたい。


「落ち着け、圭太。三浦さんはお前から逃げたんだろう。その理由はわかっているのか?」


嫌になるくらい冷静な声が部屋に響く。


「理由?」

「三浦さんはひどく取り乱していて、目が真っ赤だった。その意味がわかるよな?」


悲しませて泣かせたのだろう、と言外で伝えてくる。


「澪が今、彼女と話している。しばらくは任せておけ」

「なんで澪が……」

「今、三浦さんは澪と話す必要があるからだ。まあ、どちらかというと彼女の気持ちが理解できるのは俺のほうだが」


淡々と言われて、無性に腹が立った。

なんで俺がわからない出来事を、副社長夫妻は理解できるのか。

そして、どうして悲しむ佳奈を慰めるのが俺ではないのか。
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