幸せにしたいのは君だけ
その瞬間、すべてのパズルのピースがそろった気がした。


澪の話をする度に、伏せる目。

強張る頬。

一瞬見せる、悲しそうな表情。

――佳奈は、そんな想いをずっと抱いていたんだ。


「お前は俺にとって数少ない、信頼できる後輩で友人で、社員だ。だが澪に関して言うなら嫉妬の対象だ」

「潔いくらいに言い切りますね」

「それくらい言っても、お前は俺を恨んだりしないし、関係は変わらないだろう。付き合いの長さもある。要は信用してるから口にできるんだ」


ニッと口角を上げる副社長。


「だが、三浦さんは違うだろう。彼女にとって澪は仲の良い先輩で、お前は大事な恋人だ。自分の不用意な言動ひとつですべての関係が悪くなって壊れてしまうと、敏い彼女は気づいていたんじゃないのか? そしてそれをなにより恐れていたんじゃないか?」


先輩の言葉が鋭い刃のように俺の胸に刺さった。

きっと佳奈はずっと我慢していたんだろう。

佳奈は、先輩のように割り切った考え方はしない。

なんでもはっきり口にする性格だとしても、先輩ほど思い切りがいいわけでも、度胸があるわけでもない。

誰より繊細だ。


「それにお前、結婚式で感無量といった様子で澪を見てただろう。あれは誤解されてもおかしくない」


面白くなさそうに付け加えてくる。


ああ、そうか。

だから、佳奈は身代わり、なんて言ったのか。

どうしてわからなかったんだろう。

気づいてやれなかったんだろう。

あんなに近くにいたのに、そばにいたのに。

佳奈が本心を隠すのがうまいって、誰より知っていたはずなのに。


己の馬鹿さ加減を呪いたい。
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