幸せにしたいのは君だけ
「お前と澪にとっての“当たり前”が、俺や三浦さんにとっては“当たり前”じゃないんだ」


そのひと言にハッとした。

“幼馴染みだから”――いつもそれで済ませてきた。

そばにいるのも、頼るのも。

なにも俺たちにとって特別ではなかった。


“当たり前”だった。

だけどそれは、俺と澪にだけ通じる“当たり前”だった。

そんな大事な事実にどうして俺は気づかなかったんだろう。


「俺……最低ですね」

「俺より器用そうなお前のこういう姿を見るのは、意外だがな。仕方ないだろ。本気で好きな相手には情けなくなるものだ」


慰めるかのように先輩が言う。


「……クリスマスに、俺が澪といるのを見かけたって言ってたんです」

「クリスマス? ああ、急遽一時帰国して案件を片付けた日か? 確かあの後、澪の親友の入籍祝いを買いに行ったんじゃなかったか?」

「そうです。副社長は遅れて来られて……」

「……ふたりきりで出かけてるって誤解されたわけか」

「それすら、佳奈は俺に言わなかった。俺が言わせなかったんです。クリスマスには帰国できないから会えないって話していたせいで……」


あの時、彼女はどんな思いだっただろうか。

どれだけ傷ついただろう。

なんでわからなかったのか。

どうしてひと言でも、仕事で一時帰国すると伝えなかったのか。


不安にさせないようにしたつもりが逆に傷つけて、取り返しのつかない悲しみを与えてしまった。
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