幸せにしたいのは君だけ
「必要最低限の簡潔な指示を出して、周囲に悟られずに動けるのはお前の美点だがそれはあくまでも仕事の話だな。その分じゃ、無理やりスケジュールを早めて帰国した件も、澪に日向不動産へ様子を見てきてほしいと頼んだ件も言ってないんだろう」

「……言えませんよ。カッコ悪いじゃないですか。恋人が心配で仕事が手につかないなんて。無理やり理由を作って彼女の勤務先に向かったなんて、言えるわけがない」

「その気持ちは、同じ男としてよくわかる。俺もつい最近まではそうだったからな。だけどな、本気の相手には皆そうじゃないのか? カッコなんかつけてられないだろ。そんな真似をして澪を失うほうが俺は怖いし、絶対に後悔する」


きっぱりと言い切る副社長の声が胸に痛かった。


「そもそも惚れた時点で負けなんだ。カッコつける意味があるのか? 心から愛する人には自分の全部を見せれるものじゃないのか?」


――ああ、そうだ。

俺の小さなプライドなんかよりも、佳奈のほうがずっと大切だ。

大好きで愛しい唯一の存在。

どうしてそんな簡単なことがわからなかったのか。


やはり、俺はこの人には敵わない。

社会人としても同じ男としても。

改めて幼馴染みは男を見る目があるなと思った。


それに比べて、俺は本当に最低だ。

大事な恋人の不安に気づきもせず、一方的に責めた。

まるで子どもの癇癪かなにかのように扱った。
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