幸せにしたいのは君だけ
『……佳奈、落ち着けよ。仮定の話ばかりしてもどうにもならない。本心を隠したままじゃ、なにも解決しないだろ』

『本音で向き合いもせず、我慢するだけの関係がうまくいくわけないだろ。嫌われるとかばかりを考えていたらなにも変わらない。そんなもの、お互いのためにならない』


自分が口にした台詞に腹が立つ。

彼女の本心を言えなくしていたのは――ほかでもない俺だった。

俺が誰よりも彼女を傷つけた。


佳奈に会いたい。

会って謝りたい。

誰よりも愛していると、離れないでほしいと伝えたい。

どんなにカッコ悪くても無様でも。

俺の気持ちを聞いてくれるまで言い続けるから。


「佳奈にきちんと話します」


立ち上がると、副社長もゆっくりと腰を上げた。


「――もう大丈夫だな」

「はい、ありがとうございました」

「お前には桃子さんの件で、大きな借りがあるからな。それに、今さら澪を狙われても困る」

「狙いません。そもそも狙ってません」


間髪入れずに否定すると、ハハッと副社長は声を漏らす。


「俺の妻は手強いぞ。一応送ってやるが、叱られる覚悟はしておけよ」

「知ってます。そもそも佳奈との仲を協力してほしいと頼んだ時に、ものすごく問い詰められましたから」

「ああ、そうだったな。可愛い後輩を泣かせたら一生後悔させてやるから、だったか?」

「ええ。しかも本気なのかと何度も確認されて」

「澪は普段穏やかな分、怒ると迫力があるからな……まあ、頑張れ」

「……佳奈を取り戻すためならなんでもしますよ」


大事な恋人を今度こそ離さないためなら、俺はきっとなんでもできる。
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