幸せにしたいのは君だけ
「……あんまり幼馴染みをいじめるなよ」

「遥さんが圭太の肩をもつなんて珍しい」

「心から愛する人を失いたくない気持ちは、よくわかるからな」


最愛の妻の髪を梳いて、しれっと言い放つ副社長。

澪さんの頬がみるみる赤く染まる。

隣で聞いている私でさえ、その凄艶な眼差しに鼓動が速くなる。


「じゃ、行ってくる」


ふわりと柔らかく相好を崩す副社長。

そんな姿は初めて目にする。

どれだけ澪さんを想っているか、ひと目でわかる表情。

対する澪さんもとても嬉しそうだ。

こんな風に愛する人と想い合えたらどれだけ幸せだろう。

再び副社長を乗せた車が静かに走り去る。


「あの、副社長はどちらに?」

「遥さんには問題児を迎えに行ってもらったの。大丈夫、目的地に着いたら是川さんには帰っていただく予定だから。是川さんも佳奈ちゃんを心配していたのよ」

「え?」


秘書室長とそれほど言葉を交わした記憶はないのに……なぜだろう。


「詳しい話は家の中でするわ、どうぞ入って」


ほかの家族はそれぞれの自室にいるから遠慮しないでと言われた。

案内されたのは玄関を入ってすぐの広いリビングだった。

澪さんがコートを預かってくれた。


真新しい家の匂いが鼻をくすぐる。

そう言えば、澪さんのご実家は二世帯住居に建て替えされたんだっけ。
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