幸せにしたいのは君だけ
「佐久間様、応接にご案内いたします」


受話器を置き、割り込んできた早苗ちゃんの高い声に安堵する。


「ありがとうございます。では、三浦さんお願いできますか?」

「えっ……」

「ご案内でしたら私が――」

「いえ、ちょうど三浦さんあての伝言も預かっておりますので。――お願いできますか?」


口調は丁寧で柔らかなのに、私を見据える目はとても鋭い。

やはり、昨日の私の失言を怒っているのだろうか。


当然だろう。

あれはどう考えても、ただの悪口だ。

しかも、当事者でも佐久間さんと親しい仲でもない私が、口にすべき話題ではなかった。


「はい。ご案内いたします」


そう返事する以外の選択肢はない。

謝罪する以外にも。

心の中で盛大な溜め息をつく。



広いエントランスを抜け、エレベーターに乗りこみ、応接室のある五階フロアに足を踏み入れる。

ほかに来客はないため、フロア内は閑散としている。


「あ、あの、昨夜は申し訳ありませんでした」


頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。

謝って済む問題ではないし、許しを請いたいわけではない。

ただ、不快な思いをさせた非礼をきちんとお詫びしたいだけ。


「……さすが澪の自慢の後輩、潔いな」


淡々とした口調にビクッと肩が跳ねる。
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