幸せにしたいのは君だけ
「……お邪魔します。こんな夜遅くに突然、本当にすみません」


おずおずと、勧められた真っ白なソファに腰を下ろす。

いくら親しい後輩とはいえ、いきなり先輩の、しかもご実家におしかけるなんて、迷惑もいいところだろう。

澪さんが温かなカフェオレが入ったマグカップをふたつ、センターテーブルに置いてくれた。


「本当に気にしないで。そもそも、佳奈ちゃんを連れてきてほしいって遥さんにお願いしたのは私なのだから」

「でも……ご家族とのお時間を邪魔してしまって……」

「いいのよ。元々、今日はこっちに戻るつもりだったの。母が友人から野菜をたくさんいただいてね。そのお裾分けをもらいに来がてらの里帰りだったの。遥さんもここに泊まっていく予定だったから。用事が終わり次第、すぐに戻ってくるわ」

「そうだったんですか……」

「今日、あのホテルには新サービスの視察に行っていたの。偶然とはいえ、遥さんが佳奈ちゃんに会えてよかったわ。ずっと心配していたのよ」


澪さんがふう、と小さく息を吐いた。


「ねえ佳奈ちゃん、どうして泣いたの?」


真っ直ぐな問いかけに、しばし閉じ込めていた痛みがぶり返す。
< 170 / 210 >

この作品をシェア

pagetop