幸せにしたいのは君だけ
「責めてるわけじゃないわ。無理に聞き出したいわけでもないの。だけど、なにかつらいことがあるなら、ひとりで抱えないで。私でよければ話してほしい。力になりたいの。なにより佳奈ちゃんはきっと誤解していると思うから」


優しい先輩の声が耳に響く。


「え……?」

「佳奈ちゃん、圭太と付き合っているんでしょう?」

「どうして……」

「圭太から聞いているわ。嬉しそうに話していたのよ。あんな風に、正式に“恋人”について報告してもらったのは初めてだったの。ビックリして、嫌がる圭太から根ほり葉ほり聞き出しちゃった」


――澪さんに、私との関係を話してくれていたの?


「圭太は、今まで自分から告白した経験はないのよ。ましてや交際を申し込んだこともないの。佳奈ちゃんは私の幼馴染みにとって、なにより特別な存在なのよ」

「まさか、そんな……ありえないです」

「どうして? 佳奈ちゃんは、もう圭太が嫌い?」


嫌いになれたら、どんなにいいだろう。

諦めなくてはと思うのに名前を聞くだけで、話を聞くだけで、こんなにもまだ胸がヒリヒリ痛い。

力なく首を横に振る。


「――好き、です」


力なく吐き出した本心に、一旦押し込めた涙が堰を切ったようにあふれだした。
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