幸せにしたいのは君だけ
どれだけ時間が経っただろうか。

嗚咽混じりに話す私の右隣に座って、澪さんは辛抱強くまとまりのない話を聞いてくれた。


ずっとずっと心の奥底に抱えていた、圭太さんの澪さんへの気持ちに対する不安。

吐き出したのは醜い嫉妬と羨望。

切ない気持ち。

分不相応で叶わない恋心。

自分勝手な私の想い。


その間、澪さんはずっと私の手を握ってくれていた。

冷え切っていた私の身体に温かなぬくもりが沁みこんでいく。


「――なるほど」


長い私の話を聞き終えた先輩が、小さく息を吐く。

あまり聞いた記憶のない、低い怒りを込めた声にビクリと肩が跳ねた。

いくらなんでも、甘えて言いすぎたかもしれない。


「最低ね、圭太」


……え?


「まったくもう、どれだけ情けないのよ。普段はあんなに気が回るくせに……肝心なところで、ダメダメね。大事な話が、ひとつもできていないじゃない」


呆れたような口調に、瞬きを繰り返す。


「み、澪さん……? 私を怒らないんですか?」

「怒る? なんで?」


虚をつかれたような表情を浮かべる先輩。


「だって私、今、散々な言い方をしてしまいましたし……私は澪さんの身代わりなんだとか、澪さんにはなれない、とか、羨ましい、とか……」

「それは、圭太の説明不足のせいでしょう。逆に佳奈ちゃんは、よく耐えたと思うわ。私だったら、とっくに大喧嘩してるわよ」


クスクス楽しそうに言う。

どう反応を返せばいいのかわからない。
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