幸せにしたいのは君だけ
あの人は向き合おうとしてくれていたのに。

その手を先に離してしまったのは私だった。


胸が張り裂けそうに痛い。

でもきっと彼のほうがその何倍も傷ついている。


それでもあの人は私に向き合おうとしてくれた。

迎えにまで来てくれた。

鼻の奥がツンとする。

自分の視野の狭さ、心の狭さがつくづく嫌になる。


――今度は私があの人の手を握りに行かなくちゃ。

泣くのはそれからにしよう。

鎖骨の間にあるネックレスをギュッと握りしめた。


「澪さん。私、圭太さんと話してきます」


大好きな先輩の目を真っ直ぐに見ながら、伝える。


「それでこそ、私の自慢の後輩よ。佳奈ちゃんらしいわ」

「本当にありがとうございます。澪さんと話せなかったら、なにもわかろうとせず、きっと泣いてばかりだったと思います。副社長にまで、ご迷惑をおかけしてしまって……」

「ううん、私は今まで佳奈ちゃんに仕事でも恋愛でも、背中を押してもらってきたの。今度は私の番。どうか恋愛下手の幼馴染みをよろしくね。遥さんにとっても圭太は大事な後輩だから、幸せになってほしいと願っているのよ」

「あの、圭太さんと私が付き合うの、反対じゃないんですか?」


最後に問いかけたのは、もっとも気になっていたもの。

本当に私でいいのだろうか。


「どうして? 大賛成よ。むしろ佳奈ちゃん、圭太でいいの? こんなに振り回されて泣かされたのに。まったくあの策略家の圭太には佳奈ちゃんの真っ直ぐさを見習ってほしいくらいよ。考えたら段々腹が立ってきわ。圭太に会わせるの邪魔しようかしら」


なぜかブツブツ独り言を言い出す澪さん。


「――それは困る。俺の大事な恋人を返してくれ」
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