幸せにしたいのは君だけ
10.「頼まれても離さない」
突然背後から聞こえた男性の声。

驚いて振り返ると、リビングの入り口に圭太さんが立っていた。

なぜかひどく焦った様子で、いつも完璧に整えられている身なりが少し乱れている。


「もう、なんで勝手に入ってくるのよ」


ソファから立ち上がった澪さんが、圭太さんの真正面に立ちはだかる。

まるで私を隠して守るかのように。


(なぎ)さんに頼んだ」

「お兄ちゃんったら! もっと圭太にお灸をすえたかったのに」

「もう十分だ。一生分かと思うくらい心配したし、焦った」

「――澪、そろそろ圭太を許してやれ」


圭太さんの後ろから入ってきた副社長が妻にとりなす。


「許す、許さないじゃないのよ。一番大事なのは、佳奈ちゃんの気持ちなんだから。もう少し落ち着いてからと思っていたのに……これじゃ意味がないでしょう。こんな風に押しかけられたら、考えも纏まらないわ。まったくいつもの冷静さはどこへいったのよ」


じろりとふたりの美形男性を睨みつける先輩は、頼もしい。

さすがは澪さんだ。


「……俺には今の圭太の気持ちがよくわかるからな。大事な人を失うかもしれないって思う気持ちが、な」


穏やかな副社長の声がリビングに響く。


「澪、頼む。佳奈と話をさせてほしい」


普段とはまったく違う声に胸が詰まった。


この人は本当に圭太さんなの? 

私のためにここまでしてくれているの?
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