幸せにしたいのは君だけ
「わ、私の失礼な言動で不快な思いをなさったと思います。本当に申し訳ございませんでした」

「気にしていないから、頭を上げて」

「でも……」

「怖がらせてごめん。三浦さんに案内をお願いしたのは、ふたりきりで話す機会がほしかったからなんだ。謝罪を求めてるわけじゃない」

「そういうわけにはいきません」

「いいから、ほら」


困ったような声が頭上から響いて、そろそろと頭を上げる。

そこには穏やかな表情を浮かべた佐久間さんの姿があった。


「本当に昨日の件は怒ってない。俺たちの関係を邪推する人は大勢いたから。ただ、君がさっき人違いだと誤魔化そうとしたのは傷ついたけどね」

「す、すみません……まさか気づかれているとは思わなくて」

「隣にいたらわかるだろ、普通」

「いえ、そうではなくて。佐久間さんが私を覚えてらっしゃるとは思わなかったので」

「どういう意味?」

「その、澪さんに紹介していただいたのはずいぶん前ですし、会話をさせていただく機会もそれほどなかったので、私の名前や顔なんて認識されていないと思っていたので……」

「そんなわけないだろ。第一、結婚式でだって会ったよな? 披露宴の席だってテーブルは違ったけど近かっただろ? ……ちょっと待って。あの時もまったく会話していないのって、まさか俺を避けてた?」

「避けていたわけではなくて……馴れ馴れしく話しかけるわけにもいかないので……」

「なんでだよ」

「佐久間グループの御曹司に、おいそれと声をかけたりできません」

「はあ?」
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