幸せにしたいのは君だけ
「俺の家に来てくれる?」


コートを着て、澪さんの実家を出た途端、声をかけられた。

幼馴染み同士のふたりの家はとても近い。

迷いもせずに頷く。

とにかく、今は逃げずにこの人と向き合いたい。


「ありがとう。佳奈、俺のマフラー持ってる?」

「あ、うん……」


繋がれた指を離して、おずおずとバッグからマフラーを取り出す。

すると日中のように首にふわりとかけられた。


「寒いから、巻いていて」

「……ありがとう」


小声でお礼を言うと、圭太さんが一瞬泣きそうな表情を見せた。


「……やっと笑ってくれた」

「え?」

「佳奈、再会してからずっと笑わなかったから」


その言葉が胸に刺さった。


本当に? 

私、そんなつもりはなかったのに……。


「嫌われたのかと思って怖かった」


自嘲気味に話す彼の声はいつもとはまったく違って弱々しかった。


――私のせい? 

ただ、笑わなかっただけでこの人は自信をなくしているの?


「嫌うわけ、ない」


胸が目の奥が熱い。

さっきまでこらえていた涙がこぼれた。


「私がどれだけ、あなたを……!」


その瞬間、そっと唇を塞がれた。

驚いて目を見開く。

呼吸が止まった気がした。


「……ごめん、佳奈。その先は俺に言わせて」


ぽすんとマフラーごと私を抱き寄せた圭太さんが、耳元で呟く。
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