幸せにしたいのは君だけ
「愛してる」


え……?


「心から佳奈を愛してる」


ドクンと鼓動がひとつ大きな音をたてた。


今……なんて……?


「頼むから俺のそばにいて。俺から離れないで。俺の目の届くところにいて」


切実さの滲む声が耳に届く。

抱きすくめられたまま、私は身動きひとつできない。


「……俺を好きでいて」


そっと身体を離した彼が、私の顔を覗き込む。

長いまつ毛に縁どられた目は真剣だった。

なんて幸せなお願いだろう。


「俺だけのものでいて」


最後のお願いに、一旦止まっていた涙が再びあふれ出した。

胸の奥に温かい気持ちが一気に広がっていく。


きちんと答えたいのに、気持ちを伝えたいのに、胸がいっぱいで言葉にならない。

唇が震える。


……本当に? 

本気で私を望んでいてくれるの?


「佳奈」


切なさの滲む目が、甘く私の名を呼ぶ。

こんなにも大事そうに名前を呼ばれた経験はない。

好きな人に名前を呼ばれる幸せも全部、この人が教えてくれた。


「――あなたが好き」


滲む視界の中で必死に告げる。


「あなたを、誰よりも愛してる。お願いだからこの先、私だけを好きでいて」


ずっと願っていた。

私だけを見てほしいと。

初めて口に出した私の最大のワガママ。


「佳奈……!」


再びギュッと胸の中に閉じ込められる。

伝わる彼の速い鼓動が愛しい。
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