幸せにしたいのは君だけ
「……やっと捕まえた。失ったらどうしようって何回も思った」

「本当に、私でいいの?」

「……当たり前。俺の本気、わかってる? 一生頼まれても離さない。佳奈を誰より一番愛してるのは俺だから」


凄絶な色気を纏いながら、なぜか楽しそうに言い切る。


「佳奈の全部が俺のものだから」


コツンと私の額に自身の額を合わせる。

そのまま私の涙を唇で拭う。


「もう泣かせないけど……泣く時は絶対俺の前だけにして。ほかの男の前で泣かないで」

「な、泣いてないよ」


柔らかな唇の感触に、ピクンと肩が跳ねる。


「先輩に泣き顔、見せただろ?」

「え、でも、あれは……」


不可抗力でしょ? 

そもそも泣き止んでいたし、ホテルの入り口で会うなんて思ってなかったし……。


「それでもダメ。佳奈の可愛い姿は俺だけのものだから」


なぜか不機嫌そうに言って、顔を覗き込んでくる。

誘惑するような甘い目が私を見据える。

カアッと頬が熱を帯びる。


「……本当に可愛い」


甘い、蕩けそうな声が耳に届く。


「俺の、佳奈」


そう言って顔をゆっくり近づけてくる。

啄むようなキスをされて体温が上がる。

彼を好きだという気持ちが全身に広がっていく。


「もう離さない」


先ほどのキスとは対照的に、強く荒々しく唇が重ねられる。

まるで食べられてしまうんじゃないかと思うくらいの激しいキスに、鼓動が壊れそうな音をたてる。

何度も唇を奪われる。

まるで嵐のようなキスに頭がぼうっとする。

彼の胸に置いた手にも力が入らなくなる。


「……愛してる」


最後に耳元に甘いキスを落として、彼が私の身体をそっと抱きしめた。

すでに足に力が入らない私はしがみつくしかできない。

ただこの人が愛しくて幸せな涙が止まらなかった。
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