幸せにしたいのは君だけ
「佳奈、ごめん。順番が逆になってしまったけど、俺の話を聞いて」


しばらく私を抱きしめてくれていた彼が、申し訳なそうに口にする。


「う、うん……」


そうだった、話をするために澪さんの家を出たはずなのに……! 

こんな住宅街の真ん中で私ってばなにを……!


我に返って恥ずかしさで頬が熱くなる。

ぱっと彼から離れると、なぜか思い切り険しい表情を浮かべて、腰に腕を回された。


「大丈夫。もう深夜だし、誰も見てない」


クスリと声を漏らす恋人を軽く睨む。


「そういう問題じゃ……!」


ここは外で、私たちはいい大人なのだ。


「まあ、俺としては佳奈は俺のものって見せつけたいけど」

「な、なにを……!」

「本気だって言っただろ?」


悪びれもせずに頬にキスを落とされる。

前言撤回。

私はこの人をやっぱりまだまだ知らないようだ。

絡めた指を引っ張るようにして、彼が実家に連れて行ってくれた。


「本当は全部話をしてから佳奈を抱きしめるつもりだったんだけど、気持ちが抑えられなかった」


玄関を開けてくれた彼が申し訳なさそうに口にする。

その言葉に鼓動が暴れ出す。


「あ、あの……こんな時間にお邪魔してしまってご迷惑じゃない?」


誤魔化すように尋ねると、彼がニッと口角を上げる。

現在午前零時だ。

常識的に考えてお宅訪問をするような時間ではない。
< 183 / 210 >

この作品をシェア

pagetop