幸せにしたいのは君だけ
翻弄されたまま、彼の部屋に初めて足を踏み入れた。

広い十五帖ほどの室内には書き物机や、ソファが置かれていた。

奥に小さな扉があり、寝室だと言われた。

まるで高級ホテルの一室のような部屋に驚きを隠せない。

この人の住む世界をまざまざと見せつけられた気がした。

それでも、今の私はもう、逃げ出したいとは思わなかった。


「適当に座って」


勧められてソファに腰を下ろす。

淡いベージュの柔らかな革の感触が気持ちいい。


「なにか飲み物をとってこようか?」


尋ねられて首を横に振る。

私のバッグやコートを丁寧にクローゼットにかけてくれる。


「……本当にごめんなさい」


自身のコートを片付けていた彼が瞬きをする。


「酷い言い方をしてしまってごめんなさい。きちんとあなたに向き合わなくてごめんなさい」

「なんで佳奈が謝る? 謝らなきゃいけないのは散々泣かせて苦しめた俺だ」


困ったように言って、圭太さんは私の右隣に座った。

そっと頬に触れられて、その温もりに胸が詰まった。


「……副社長が俺の馬鹿な間違いに気づかせてくれた。佳奈が俺に訴えていた言葉の意味がやっとわかった。最低なのは、一番悪いのは俺だ。傷つけて、つらい想いをさせてごめん」

「ううん、きちんと聞けばよかったのに。ひとりで抱えてしまった私が悪いの」

「でもそうさせてしまったのは俺だ。佳奈が人の感情に敏感で思いやり深いって知っていたのに。つまらないプライドで傷つけた」

「え?」
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