幸せにしたいのは君だけ
「俺と澪は学生時代から色々な人に何度も関係を邪推されてきたんだ。ただの幼馴染みだって公言していたし、俺たちは気にしていなかったんだけど。澪が先輩と婚約した途端、周囲からたまに腫れものに触るように扱われて辟易してた」


その気持ちはなんとなくわかる。

否定しているのに疑われるのはつらい。

とはいっても私も誤解していたひとりだ。


きっと彼にとってはイラ立つ存在だっただろう。

そう考えるとあの店での出会いはますます最低なものにしか思えない。


「ご、ごめんなさい。そんなつもりはなくて」

「だからなんで謝るんだ? 俺は佳奈に救われたんだ」

「え?」

「なんで澪と結婚しなかったのかって言っただろ。しかも煮え切らない男性はお断りだっけ? あれは本当、面白すぎた」

「い、言わないで……!」


ああ、もう。

あの頃の私を叱ってやりたい。


「そんな風にはっきり口に出したのは佳奈だけだった。だからものすごく興味をもった。皆、心の中で思っていても口にしないから。素知らぬフリも誤魔化しもできたのに、佳奈はその後、潔く謝ってきただろ」

「だって、あれはさすがに失礼だから……」

「そういうところ。真っ直ぐ俺を見つめてくる佳奈に、ウソのつけない人だと思った。それからどんどん佳奈に惹かれたよ。こんなにも惹きつけられて目が離せなくて、そばにいたいと思うのは初めてだった」


情熱的な言葉に反応を返せない。
< 189 / 210 >

この作品をシェア

pagetop