幸せにしたいのは君だけ
心底呆れたような声を上げて、イラ立ったように長めの前髪をクシャリとかき上げる。

艶やかな黒髪が指の隙間からこぼれ落ちる。


「あのさ、実家は関係ないから。俺は今、君と同じ九重グループの一社員なんだけど」

「それは……そうですけど。でも澪さんの大切な方ですし」

「昨夜もそうだったけど、えらく誤解を招くような発言だな。俺はアイツのただの幼馴染みで、それ以上の存在にはならないし、なった経験もない。なにより、アイツには副社長という夫がいる」

「知っています」

「もうひとつ。俺はアイツの恋人になりたいとか、結婚したいとかを願ったことは一度もない。それは澪も同様だ。だから煮え切らない男、ではないはずだけど?」


最後の言葉にカアッと頬が火照る。


「……ものすごくしっかり、覚えてらっしゃいますね」


主に私の失言を。


「記憶力はいいほうなんでね」


ニッと口角を上げる。

そんな姿すら絵になるなんて、本当に羨ましい。



今さらだが、佐久間さんは容姿が整っている。

ものすごく高いレベルで。


百八十センチは超えている身長に長い足。

二重の目を縁どる長いまつ毛に、男性とは思えないほど綺麗な肌。

すっと通った鼻筋に薄い唇。


そのすべてが絶妙のバランスで配置されている。

中性的とさえ思える、甘めの面立ちからは男性らしい色香が漂う。

それでいて穏やかな雰囲気を醸し出しているので人目を引く。
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