幸せにしたいのは君だけ
「ギリギリのスケジュールを組まれるし、先輩のせいでトンボ帰りだし」

「なんで、そこまでして……」


どうして。

胸が詰まる。

申し訳ない気持ちでいっぱいなのに、罪悪感もたくさんなのに。

それでも嬉しくて胸の中が熱くなる。

なんて私は身勝手なんだろう。


「離れている間に佳奈を誰かに奪われたくないから……アイツとか」

「アイツ……?」

「会社の前で会ってただろ。合コンにも来てた男」

「ま、益岡さんのこと?」


名前を口にすると、彼が眉間に深い皺を寄せる。


「あれは忘れ物を届けただけで……」

「わかってる、疑ってるわけじゃない。でも佳奈がほかの男とふたりでいる姿を見たら平気ではいられない……嫉妬してしまうんだ」


苦しそうな表情を浮かべるこの人は誰?


いつも冷静で飄々としていてつかみどころがないのに。

どんな困難な仕事だって物おじせずにこなせる有能な人なのに。


「年上なのに余裕がなくて、カッコ悪いって、情けないって自覚してる。だからずっと隠してた。でもこんな気持ちになったのは初めてで……俺自身戸惑っている」


クシャリと長めの前髪をかき上げる。

バツが悪そうに視線を逸らす。

この人は自身のすべてで私への気持ちを示してくれている。

海外赴任はこの人にとって大事な経験のはずだし、譲れないものだったはずなのに。
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