幸せにしたいのは君だけ
「でも……大事な仕事でしょう……? 私だって離れているのは寂しいし不安だけど、でも信じて待っているから……だから」


この人の気持ちをもう疑ったりしない。


「俺が平気じゃない。佳奈が泣いてる時や寂しい時に、一番近くにいたいんだ。なにより俺が離れたくない。だから、これは俺のワガママだと思って諦めて」


ゆっくりと語りかけるように告げる彼。

その目はいつになく真剣だった。


……この人は、どこまで私を甘やかすんだろう。

そんなのワガママのはずがないのに。

私のために、私が罪悪感を抱えないように敢えてそんな言い方をしてくれるなんて。


涙が止まらなくなる。


「そんな忙しい帰国だったのに、知らなかったとはいえ酷い言い方をしてごめんなさい」

「佳奈は悪くない。帰国の連絡をしなかった俺のせいだ」

「でもそれは忙しかったからでしょう?」

「いや、一番の理由は連れて帰りたくなるから……それと佳奈に期待をもたせて悲しませたくなかったから」


ドクンと鼓動が大きな音を立てた。

色香のこもった熱い眼差しが私に向けられる。


「仕事で必死になってる時も、佳奈のことばかり考えてた。そんな時に会って冷静でいられる自信、なかったから」


ギュッと心臓を鷲掴みにされた気がした。

圭太さんはフッと優雅に口元を綻ばせる。

澪さんが本人に聞くよう言ったのはきっとこの件だったんだ。

副社長秘書の澪さんが知らないはずがない。
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