幸せにしたいのは君だけ
「じゃあ、焦った様子だったって……九重を退職するって、澪さんと出かけてたって」


ああ、なにを言ってるんだろう。

聞かなきゃ、と気持ちが急いてうまく話せない。

ドキドキしすぎて頭がうまくまわらない。


「そりゃ焦るよ。時間の余裕もないし、この仕事をこなさないと異動願は実質受理されないし。それと澪といたのは澪の親友が年明けに入籍する祝いを買いに行ったから。俺が帰国していてタイミングがいいからって言われてさ。ちなみに先輩も、すぐ後から合流した」


……ウソでしょ。

それなのに私ってば……。


「ああそれと、九重を退職するのはまだ当分先だ。まだまだここで学びたい要素があるから。その時は佳奈に一番に伝える」

「本当……?」

「もちろん、だって、佳奈を俺の会社に連れていきたいから」


会社に連れていく?

思わず首を傾げた私に、圭太さんがなにかを企むように、口角を上げる。


「引き抜きって言ったらわかる?」

「えっ! な、なんで……?」

「大事な恋人と離れたくないから。今でも不満だけど、一応グループ会社だから我慢してる」


いや、一般的な恋人同士って会社が違う場合がほとんどじゃ……? 

社内恋愛を除いて。


「俺、どうやら独占欲が強いみたいだから。そこは先輩に似てるんだよ。まあ、佳奈がどうしても日向不動産に残りたいなら考えるけど」


しれっと口にする恋人を信じられない思いで見つめる。
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