幸せにしたいのは君だけ
「澪には幸せになってほしいとずっと願ってきた。そのための手助けは全力でしようと決めていた。――だけど、俺が幸せにしたいとは一度も思わなかった」

「圭太さん?」


迷いのない真っ直ぐな目が私を覗き込む。

肩をさらに強く抱き寄せられる。


「俺自身で幸せにしたいと、全力で守りたいと心から願ったのは、佳奈だけだ」


ストンと彼の言葉が胸の奥に落ちてきた。

じわじわ広がる熱。

胸が震えて、なにも言えなくなる。


「――佳奈だけを愛してる」


私の涙腺が崩壊した瞬間だった。


それから私たちは、たくさんの疑問、幾度ものすれ違いを埋めるかのように、長い時間をかけて話をした。

それはこれまで過ごしたどんな時間よりも穏やかで、甘いものだった。

ひとしきり話した後、圭太さんが私の額に小さな口づけをくれた。


「佳奈の全部を俺にくれないか。今日は離れたくない」


その言葉の意味がわからないわけではない。

火照る頬の熱を持て余しながら頷くと、彼が私をそっと横抱きにして抱き上げた。

突然の浮遊感に驚いて圭太さんにしがみつく。


「け、圭太さん!」


頬に熱が一気に籠もる。


「本当、可愛い。限界」


そのまま寝室に向かう圭太さんの足取りに迷いはなかった。

そっと月明かりに照らされたベッドに宝物のように横たえられる。

降ってきたたくさんの口づけに頭がいっぱいになる。


「……一生、一緒にいて」


その言葉と同時に覆いかぶさってきた彼の重みと香りに包まれて、私は幸せな時間を過ごした。
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