幸せにしたいのは君だけ
「ねえ、佳奈(かな)。どこかに王子様っていないかなあ」


ここ数年恒例になりつつある、月二回の親友との女子会。

その終盤で千埜(ちの)が言う。


「出た、王子様妄想。いるわけないじゃない」

「なんでよ」


千埜と私は、日向(ひゅうが)不動産株式会社に勤務する同期で、親友だ。

大学時代からのよく知った付き合いのせいか、私たちの会話はお互いにどこか遠慮がない。


「いたらこんな十二月の真ん中に、呑気に焼き鳥食べていないでしょ。クリスマスデートの計画で頭がいっぱいになってるわよ」

「この店に来たいって言ったのは佳奈じゃない」

「だって、澪さんのお勧めなんだもん。一度行ってみたくて」

「ああ、この間結婚された先輩……佳奈は結婚式に招待されてたんだっけ」

「うん、すごく綺麗だった。副社長も相変わらずのイケメンで、女性陣の目が釘付けだったわ」


目を閉じなくても、すぐに浮かんでくる光景。

二カ月ほど前に、同じ受付業務担当だった先輩が結婚式を挙げた。

私より三歳年上とは思えないくらいに可愛らしく、どこかのんびりした性格の澪さんは私の憧れだった。

何事にも無頓着に見えるのに、気遣い上手で仕事もできる女性。

澪さんは私をしっかり者だと言ってくれていたが、どちらかというと私の方が頼っていたと思う。

そんな先輩は親会社の秘書室に突然異動となり、副社長と恋に落ちた。
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