幸せにしたいのは君だけ
それから三カ月近くが経った五月半ばの金曜日。

仕事帰りに待ち合わせをして、私たちは出会った焼き鳥屋さんで食事をし終えたところだった。


偶然の出会いから、私たちは始まった。

そのためここは私のとてもお気に入りの、大好きな店だ。

今日もこの店に行きたい、と言った私のために彼が予約をしてくれていた。


「ありがとうございました!」


あの日と同じように、店員の明るい声に見送られる。


お互いの誤解をといた日からしばらくして、圭太さんは正式に日本での勤務になった。

副社長に与えられた仕事を完璧にこなすまでは、アメリカと日本を行き来していたけれど、先月頃には落ち着いてきていた。


そしてやはり有言実行の恋人は自分の言動をしっかり覚えていた。


『同棲の返事は?』

『圭太さん、今、実家でしょ』

『一緒に暮らす部屋があればいいのか?』

『そうじゃなくて、まだ仕事も落ち着いたばかりだし』

『そんなのどうにでもなる。佳奈は俺と暮らしたくないの?』

『暮らしたいけど、でも、まだなんの準備もできていないから』


そうなのだ。

私自身もまだまだ業務に不慣れで必死な毎日を送っていた。

物件を探す余裕も、両親に改めて同棲の件を言い出す機会もなかったのだ。
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