幸せにしたいのは君だけ
「未練はないんですか?」

「澪に? まったくないね。むしろホッとしてる。おかげで新たな目標ができた」

「目標、ですか?」

「ああ、今はなんだか目が覚めたような気分なんだ」


それは新しい恋愛を探しているという意味?


「だから君の発言もなにもかも、まったく不快に思っていないと言ったら信用してくれるか? そもそも、俺は三浦さんみたいに潔い女の子は好きなんだ。君はさっき誤魔化そうとしたけど、ウソはつかなかった。しかも謝罪までしてきただろ?」


何気なく言われた“好き”という単語に、心臓が小さく跳ねた。

動揺しないように、無意識に頬の内側を噛む。


「普通の対応だと思うのですが……」

「そう思えるなら、君はずいぶん真っ直ぐな性格なんだよ」

「褒めても、なにもでませんよ」

「そうやって正直さを前に出せば、彼氏なんてすぐできるだろ」


あけすけな言い方が胸に刺さる。


「なにを……」

「恋人を探してるんだろ? 違ったか?」


先ほどの柔らかな言い方とは違う、少し傲慢とも思える口調に心が揺れる。

怪しくなりかけた会話の行く先を読み間違えないように、慎重に言葉を選ぶ。


「……いけませんか?」

「いや、なんでわざわざ取り繕ってるんだろうと思ってさ。男受けのしそうな髪形やメイク、服装。それってそんなに必要か? そもそも君の雰囲気に合ってない。だって君はあれだけはっきり自分の意見を口にできるんだから」


放たれた言葉が矢のように突き刺さる。
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