幸せにしたいのは君だけ
「……ほうっておいてください」


なんでいきなりそんなことを言われなくてはいけないの?


「今は制服だからわかりにくいけど、昨日の君の装いは、さっき受付にいた女の子のほうが、似合うんじゃないか」


……余計なお世話だ。

そんなの、言われなくても私が一番よくわかっている。


年齢を重ねていくと、似合うものと似合わなくなるものがある。

いつまでも同じ場所で踏みとどまってはいられない。

いつまでも若いわけではない、と言外に言われた気がした。


これは昨夜の仕返しなの? 

気にしていない、怒っていないと言っていたくせに。

ずっと根に持っていたの? 

佐久間さんって、本当はこんな意地悪な性格だったの?


「お見苦しい姿をお目にかけてしまい申し訳ありません。もうしばらくしましたら、すぐに担当者がまいりますので失礼いたします」


事務的に伝え、一礼する。

すかさず踵を返す。


この人と同じ場所にもういたくない。

ほんの少しでも素敵な人だと思いかけた私が馬鹿みたいだ。

やっぱり私には男性を見る目がない。


「ちょっと待てって。なんで急に怒るんだよ」


二の腕に彼の大きな手が触れて、引き留められる。

振りほどこうと腕を動かすがびくともしない。

細身に見えるのにさすがは男性だ。

力では敵いそうにない。


「怒っていません」

「いや、明らかに怒ってるよな? 俺は君を不快にさせたくて言ったわけじゃないんだって」

「じゃあどういうつもりでおっしゃったんですか? どう考えても、先ほどの発言は私への侮辱としか思えないのですが」
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