幸せにしたいのは君だけ
整った容貌をきつく睨みつける。

曲がりなりにも来客にとっていい態度ではないし、社会人としても失格だ。

わかっているけれど、止められなかった。


「今、言っただろ。なんで取り繕ってるんだって。君は、そのままでいたほうが魅力的だと思う」


胸の中にじんわりと熱が広がる。

同時に、まるで古傷に触れたような心地悪さも感じてしまう。


魅力的、だなんて。

そんなセリフをこんな真顔で言われた経験なんてない。

しかもこんな極上の男性から。

耳が、頬が熱い。


「……まさか照れてる? 可愛いな」


甘やかな声が耳に届く。


「か、可愛くなんか……っ」

「そんな真っ赤な顔で否定されても、ますます可愛らしさが増すんだけど?」


そっと、長く綺麗な指が頬に触れる。

あまりに近い距離に腰が引ける。

でも腕を固定されていて動けない。


「本当、素直だな。なあ、ひとつ提案があるんだけど」

「提案?」

「一緒に“本気の”恋人探しをしないか?」

「は……い?」

「君は心から好きな人に出会いたいんだろ? 俺もそうだ。いい加減、周囲に澪が好きだったんだろうと邪推されるのには辟易してるんだ」


……やっぱり誤解されていたんだ。


「なにより副社長が嫉妬深くて、俺が澪に恋心を抱いてるんじゃないかって、今でも疑われていて、いい迷惑なんだよ」


私ですら気づくくらいなのだ。

妻を溺愛する夫が気づかないわけがない。

この人はこのセリフをどんな気持ちで言っているんだろう。


本心? 

それとも上手なウソつきなの?
< 23 / 210 >

この作品をシェア

pagetop