幸せにしたいのは君だけ
「副社長は、そんな方には見えませんが」


当たり障りのない返答をする。


「そう見せてるだけ。あの人、独占欲がすごいからね」


そう言って渋面をつくる。

その様子がなんだかおかしくて、クスリと声が漏れた。


「君は計算した笑い方をするよりも、そうやって自分の気持ちのままに笑ったり意見を言うほうが似合っていると思う。服装もだけど」


ほんの少し高揚しかけた気持ちに、亀裂が走った気がした。


服装? 

さっきから幾度となく指摘されている。


「……私の普段の恰好は、なにかおかしいですか?」

「おかしいわけじゃないけど、君の雰囲気には合っていない気がする。なんでわざわざ性格と真逆の、似合わない恰好をしているんだ?」


バシッと頬をはたかれたような感覚。

こんなにはっきりと、異性から面と向かって否定された経験はない。


心が急速に冷えていく。

すっと頬と腕に触れていた彼の指から逃れる。

ゆっくりと後ずさり、距離をとる。


「ご忠告、どうもありがとうございます。でも余計なお世話です。私には佐久間さんのアドバイスは必要ありません。どうぞご自身の助言を素直に受けとめる、心優しい女性と、恋人探しでも恋人ごっこでも好きになさってください!」


一気に言い放つ。

語尾がキツイ口調になってしまったのは仕方ないだろう。

大声で叫ばなかっただけ、社会人としてマシだと褒めてもらいたい。
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