幸せにしたいのは君だけ
勝気で可愛げのない本性を隠すかのように、敢えて可愛らしい服装を心がけていた。

クローゼットにあるのは、ほとんどがそんな戦闘服のようなものばかり。

“私の好み”というよりいつも“誰か”の好みだった気がする。


……私に似合う服装ってなに?

……意味がわからない。


今までほかの誰にも家族にだってそんなひどい言い方をされたことはない。

むしろ周囲からは装いに気を遣っているとか、オシャレだとか褒め言葉をもらっているくらいなのに。


なんで赤の他人同然の人に、そんな言われ方をしなければいけないの。

私を嫌いなら、怒っているならそう言えばいいのに。


ああ、イライラする。

どうしてこんな扱いを受けなければいけないの。

気にしていないとか言いながら、私をやり込める方法を狙っていたの?


だとしたら成功だ。

これ以上ないくらい、みじめな気分を味わっているから。


彼は九重グループの独身女性社員たちの有力な花婿候補だ。

世の中の独身女性たちからも羨望の眼差しを向けられている。


いくらグループ会社とはいえ、佐久間さんが来社する機会は少なかった。

それなのに私がよく見かけていたのは――澪さんがいたから。
< 28 / 210 >

この作品をシェア

pagetop