幸せにしたいのは君だけ
2.「迎えにきた」
金曜日。

最悪な気分で過ごした今週も、今日で終わる。

憂鬱な気持ちも明日からの休日にほんの少し晴れそうだ。


チラリと腕時計に視線を落とす。

午後二時を過ぎた今は、それほどロビー内も混雑していない。


佐久間さんはあれ以来、来社していない。

このままアメリカにさっさと戻ってほしいと切実に願う。


「佳奈さん、今度佐久間さんが来社されたら、私に案内させてくださいね!」


真剣な表情で今日も懇願してくる後輩に苦笑する。

この“お願い”を聞くのは、もう何度目だろう。

あの日以来、ほぼ毎日のように言われている。


「ハイハイ、どうぞ」

「絶対ですよ!」

「でも佐久間さんって、海外赴任中でしょう。もう戻られているかもしれないわよ」

「来週いっぱいは日本に滞在されるそうですから、大丈夫です」

「……なんで知ってるの?」

「九重に勤務する友人に聞いたんです。あちらでも、やっぱり佐久間さんは大人気らしいですよ。毎日、たくさんの女性たちから食事に誘われてるんですって」

「へえ、やっぱりモテるのね」

「当り前じゃないですか! あれだけのイケメンで仕事もできるし、しかも佐久間グループの御曹司なんですよ。佳奈さんこそ、なんで興味がないんですか? 知り合いなんでしょう? 紹介してくださいよ」


本当に後輩の情報収集能力には恐れ入る。
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