幸せにしたいのは君だけ
「あら佳奈。お疲れ様」

「千埜」


総務課を出たところで、書類を手にした親友と出くわした。


「ちょうどよかった! 昨日確認し忘れていたから、気になっていたのよ。今日の約束覚えているわよね?」

「約束?」


今日は、なんの予定もなかったと思うけれど……。


美作(みまさか)商事に勤務している友達と合コンするって言ったじゃない!」

「……あ」

「あ、じゃないわよ。まさか忘れていたんじゃないでしょうね? 最近、合コンに興味ないのは知ってるけど、これだけは参加してよ。佳奈を絶対に連れてきてって、頼まれてるんだから」

「誰に?」

「学生時代の友達。先月うちに来社して、佳奈を見かけて興味をもったんだって」

「そんな話、初めて聞いたんだけど」

「私も昨日、聞いたばかりなの。やたら合コンしてほしいって言われてた理由が、やっとわかったわ。以前から佳奈も参加するって伝えてたから、敢えて言わなかったみたい」

「でも……申し訳ないけれど、私その方について記憶がなくて……」

「いいのいいの、気にしなくて。向こうも、まずは友達になりたいって言ってたくらいだから」

「でも、私、本当にもう合コンは……」

「わかってる。これで最後にするから。今回だけ、ね? お願い!」


目の前で拝むようなポーズを取られ、嘆息する。

元々約束していたのを忘れていたのは私だし、断るわけにはいかない。
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