幸せにしたいのは君だけ
朗らかに言う彼は、とても話しやすい人だ。

先ほどから幾度となく、当たり障りない会話を振ってくれている。

気を遣ってもらって申し訳ないくらいだ。

きっとこの人はすごくモテるだろう。


趣味は映画鑑賞だと言っていた。

インドア派の私には有難い趣味だ。

こういう人と付き合うと、とても楽しそうだと思うのに、どうしてかまったく心が動かない。

どちらかというと客観視してしまっている私がいる。


合コンに参加して、こんな経験は初めてだ。

お互いに出会いを求めている同士が出会っているのに、まったく乗り気にもならないなんて。

そもそも相手に失礼だ。

わかっているのに、どうしても心が弾まない。


「ごめんね、今日具合が悪いんだよね? 無理に来てもらって申し訳ない」

「え……?」


思わず右隣に座る千埜を見ると、小さく目配せをされた。

どうやらテンションの低い私を気にして、事前に布石をうってくれていたようだ。

確かにここ数日ずっと緊張していたせいか、最近は夜になると頭痛に見舞われる。

とはいえ、親友にまで気を遣わせてしまうなんて自分が情けない。


「あ、いえ、大丈夫です。すみません」


しっかりしなくちゃ。

益岡さんはとてもいい人だし、好きな人を探しに来たんでしょう。

見つけたいんでしょう。

自分からチャンスを棒に振ってどうするの?
 
こんないい条件の男性にはなかなか出会えないんだから。


心の中で自分を叱咤する。
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