幸せにしたいのは君だけ
「本当に今日は無理しなくていいから。具合が悪いならすぐに言って。タクシー呼ぶし」

「いえ、そんな申し訳ないですから」

「気にしないで。三浦さんさえよかったら、今度もう一度食事する機会をもらえたら嬉しいんだけどね」

「――ちょっと益岡、ずいぶん積極的ね。私にはそんな甘いセリフ、今まで一度も言ってこないくせに」


千埜がここぞとばかりに会話に参加してくる。


「お前には不要なセリフだからな」

「失礼ね」

「どっちが。俺が誘う前に、いつも都合も聞かずに飲みに付き合わせるだろ」

「いいじゃない、どうせ彼女もいなくて暇でしょ」


遠慮ないふたりの応酬に唖然とする。

思わずクスリと声が漏れた。


このふたり、本当はとても相性がいいんじゃないだろうか。

こんなにお互いにポンポンと言い合えるなんて羨ましいくらいだ。


「――失礼。佳奈を迎えに来たのですが」


穏やかな空気を一変させる低い声が、背後から響いた。

その声に、なぜか背中に痺れがはしる。


佳奈って……私?


柔らかな口調なのに、どこか威圧感のある低い声には、聞き覚えがある。


でも、まさか。

彼が私を迎えに来るわけがない。

大体、ここで私が合コンに参加しているなんて知るはずがないし。
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