幸せにしたいのは君だけ
「――佳奈、用意できたか?」


先ほどとは打って変わった甘い声が私の名前を呼ぶ。

コートを着込んだ私を見て片眉を上げる。


どうしてそんな声を出すの。

なんでそんな優しい目で私を見るの?


「行こう」

「またね、佳奈」


ヒラヒラと華奢な手を振って見送ってくれた親友になにか言おうとした途端、右手をグイッと引っ張られた。


「ちょっと待って……私は体調不良なんかじゃありません!」


反論する間もなく、そのまま店の外に連れ出されてしまう。

大きな手が私の手をすっぽりと包み込む。

その高い体温に心が落ち着かない。


強引に連れ出され、不安定な体勢のまま、突然強く繋いだ手を引かれる。

カツン、と高いヒールの音がアスファルトに響く。

転びそうになる私を危なげなく彼の長い腕が支え、広い胸の中に閉じ込められる。

瞬時にふわりと立ち昇る、スッキリした香りはこの人のものだろうか。


「なにを……!」


身体をよじって離れようとするのに、背中にまわされた腕はびくともしない。


「合コンは苦手なんじゃなかった?」

「なんで知って……」

「言ってただろ、焼き鳥屋で」


どこまで私の話は筒抜けだったんだろう。

いい加減、情けなくなる。
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