幸せにしたいのは君だけ
「佳奈?」

「な、なんですか」

「いや? 可愛い名前だなと思って」

「……ありふれた名前だと思いますが」


動揺が声に出てしまいそうになるのを、必死でこらえる。


ああ、もう。

この人は危険だ。

いつの間にか私のペースを崩して、心の奥底に入り込んでくる。


「俺の名前は知ってるよな?」


確認のような問い方が腹立たしい。


「圭太、さん」

「よくできました」


薄暗い車内でもわかるくらい、嬉しそうに眦を下げる。

その表情があどけなくて、それでいて魅力的で目が離せなくなる。


……どうしてこんな人が私に協力を求めるのだろう。

そんなものは不要なはずなのに。

ほとんどの女性はこの人の魅力に抗えないはずだ。


――でも、この人が本当に惹きつけたかった女性への想いは叶わなかった。

きっと、その出来事を彼はこれから一生抱えるのだろう。


それでも。

私には関係ない。

私たちはただの協力者。

同じ『本気の恋』に向かう、いわば同志のようなもの。

それ以上でも以下でもない。


私は絶対にこの人には惹かれない。

恋なんて、しない。

結果の見える恋愛なんかしたくない。


本気の恋をしたいと願ったけれど、つらい恋愛をしたいわけじゃない。

叶わない恋なんていらない。

がむしゃらで向こう見ずな恋愛なんて必要ない。

十代の頃ですら、そんな恋愛は避けてきたのだから。
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