幸せにしたいのは君だけ
「……別にお互いを知る必要なんて……」

「知らなきゃ、的確なアドバイスはできないと思うけど? 仕事でも下準備は必須だろ?」


本当に口がうまい。

気を抜いていたらあっという間にペースに呑みこまれていく。

さすがは九重副社長が太鼓判を押す有能な人物だ。

異例のペースでの出世も、重要な仕事を幾つも任されているという噂も納得だ。


「じゃあ、まず質問。苦手な男性のタイプは?」

「……タイプとかではなくて、遠距離恋愛が苦手ですね」

「――へえ、なんで?」


なぜか佐久間さんの声のトーンがグッと下がる。


「好きな人にすぐに会えないのはつらいと思うので。それに相手がどういう状況なのかわからないでしょ」

「それは相手を信用できないとか、浮気を心配しているって意味?」

「違います。好きな人が落ち込んでたり、つらい気持ちや寂しい気持ちになっている時に、そばにいてあげられないから。私も、そういう時はそばにいてほしいと思うので」

「……へえ、素直だね」

「馬鹿にしてます?」

「いや、俺もそう思うから」


あっさり肯定されて驚く。

意外すぎる。


「……もちろん学生ではないので、仕事や色々な事情ですぐに会えないとかそういうのはわかるんです。でも会おうと思ったら、会える距離にいたいんです。今日がダメなら明日、とか。でも、海外とか物理的に遠すぎる距離じゃ、そう思ってもすぐに会えないから」
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