幸せにしたいのは君だけ
「なにか不要な心配をしているみたいだから一応言っておくけど、両親は海外出張中で不在だ。俺はひとり息子だからこの家には現在、俺と数人のお手伝いさんしかいない」


……お手伝いさんって……さすがは御曹司。

手入れの行き届いた室内の状況に納得する。


「以前みたいに独り暮らしをしていたらそっちに連れて行くんだけど。今は副社長が住んでるから、とりあえず実家に連れてきた。佳奈の最寄り駅からも近いし」


当たり前のように言われて面食らう。

いやいや、その選択肢おかしくないですか?


「いえ、あの普通、実家に見ず知らずの女性を連れてこないと思うのですが……」


私だったら絶対に連れてこない。


「佳奈は見ず知らずの女性じゃないだろ」


平然と言って、どんどんそのままの体勢で歩き続ける。

もう幾つの扉を通り過ぎただろうか。

一体どれだけの部屋があるんだろう。

想像するのが怖い。


「あ、あのタクシー代を……!」


ふと思い出して、話しかける。


「ハハッ、今それ言う? 本当に面白いな」


なんで?

代金を支払うのは当然だし、送ってもらっておいて全額支払ってもらうなんて申し訳なさすぎる。


「普通、そこは“ありがとう”で終わりだろ」

「それはダメです。送っていただいてそこまで甘えられません」

「そういう律義なところも俺は気に入っているけど、それよりもこの状況には危機感を感じないのか?」

「え?」
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