幸せにしたいのは君だけ
「よく知りもしない男の実家に連れ込まれてるんだけど?」


長いまつ毛に縁どられた目が、妖艶に私を見つめている。


「……圭太さんはよく知りもしない男性、じゃないので」


先ほどのやり取りと似た言葉を切り返す。


「へえ?」

「同志、ですよね? それに澪さんの自慢の幼馴染みです。女性に手荒な真似をするとは思えません」

「……そこは、もう少し……」


ぽつりと漏らされた言葉はよく聞こえなかった。


「なにか言いました?」

「いや、その通りだと思って。でもあんまり信用しすぎるのもどうかな――佳奈、扉開けれる?」


言われて、素直に目の前の扉を開ける。

大きな部屋の中にはまるでホテルの一室のように、大きなベッドと小さなソファセットが置かれていた。

彼は躊躇いもせず室内に足を踏み入れ、私をベッドにゆっくりと下ろした。


「あ、ありがとうございます」

「どういたしまして」


ベッドに浅く腰かけた状態で礼を述べると、圭太さんはふわりと相好を崩す。


「あの、ここまで運んでいただいてなんですが私、自宅に戻ります」

「……帰すと思う?」


私の右隣に腰かける圭太さん。

ギシリとベッドが軋む。

至近距離に、整った容貌が近づいてくる。


思わず身体を引きかけた私の腰を彼の長い腕が捕まえる。

もう片方の手で、乱れた髪をひと房掬い上げられる。
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