幸せにしたいのは君だけ
「聞こえなかった? 信用しすぎるのもどうかって」

「な、なにを……」

「ここまで来て、俺が佳奈を帰すと思う?」

「揶揄わないでください!」


ゴクリと喉が鳴る。


「揶揄ってないよ。どうでもいい女なら、わざわざ実家に連れてきたりしない。ああ、言っておくけど、成人してからは澪ですらここには来ていない」

「……どういう意味ですか?」

「そのままの意味。佳奈は俺の特別だから」


いたずらっ子のように口角を引き上げて、長い指に絡めた髪にキスが落とされる。

カッと全身が熱くなる。

そんな仕草をこれまでにされた経験はない。

私はただの恋人探しのパートナーのはずだ。

同志の関係にこんな親密な仕草は必要ない。


「わ、私は同志、なんですよね?」

「お互いを知るのは大事だろ?」


脳裏に先ほどタクシーの中で言われたセリフが蘇る。

けれどあの時とは状況が違いすぎる。


「け、圭太さんは本気の恋の相手を探しているんですよね? だったら、なんでこんな……」

「俺が、佳奈を本気の恋の相手に選んだって言ったら?」

「は……い?」


言われた内容が理解できない。

頭の中が真っ白になる。


私が本気の恋の相手?


「誰の?」

「もちろん俺の」

「冗談ですよね?」

「まさか、本気」

「どうしてですか! ふざけないでください!」
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