幸せにしたいのは君だけ
意味がわからない。

さっき“お互いに”恋の相手を探そうと言いあったばかりだ。

舌の根も乾かぬ内に、なんでこんな展開になっているのか。


「ハハッ、まさか告白して怒られるなんて、思ってもみなかったな。さすが佳奈」


当の本人は至極楽しそうにクックッと肩を揺らしている。

それでも髪も腰も解放はしてくれない。

それどころかグッと距離を近づけてくる。

視界いっぱいに広がる美麗な面差しに圧倒される。


「当り前でしょう! 私にアドバイスをしてくれるって……あれはウソですか?」


騙された気分だ。

一瞬でもこの人を信用した私が馬鹿みたい。

きっとなんて簡単な女だろうと思われているだろう。

少しでも甘い言葉をかけたら靡いてくると。


悔しくて涙が出そうになる。

鼻の奥がツンとする。

でも絶対に泣いたりしない。

この人の前でなんて泣くもんか。


「ウソじゃない。佳奈にアドバイスはする。君の自己評価は俺が思う以上に低いし、しかも自分の魅力を全然わかっていない。もっと自分に自信をもつべきだ」


睨みつけた私の目に、真摯な光を宿した彼の目が映る。

てっきり茶化されるか馬鹿にされるかと思っていたのに、拍子抜けしてしまう。
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